1.はじめに
コラムをご覧いただき、ありがとうございます。絵本専門士の浅野澄と申します。
私は絵本専門士として「もっと多くの人に絵本を大好きになってほしい、もっともっと絵本を楽しんでほしい」という願いを胸に活動しています。絵本は、時間も場所も飛び越え壮大な旅へ連れて行ってくれるだけでなく、喜びや感動、時には怒りや悲しみといった豊かな「感情を分かち合う空間」を創り出してくれます。この感情の共有こそが、かけがえのない宝物と感じています。
このコラムでは、私自身も絵本を通して生まれる心の交流を願いつつ、ご覧の皆様と一緒に奥深い絵本の世界を楽しみ、子育てや日々の生活を彩る一冊との出会いをサポートできれば幸いです。
今回から執筆させていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。
2.迷った時に頼りたい「心強い道標」としての絵本選び
今回は、出産祝いや誕生日などのプレゼントにおすすめしたい「わらべうた絵本」に焦点を当ててご紹介します。
先日、友人や親戚の元に新しい命が誕生しました。その際、「かけがえのない赤ちゃんと、豊かな触れ合いの時間を楽しめますようにと願いを込めて贈ったのが「わらべうた絵本」です。
私が贈ったのは、こちらの絵本です。
わらべうたでひろがるあかちゃん絵本
『おせんべ やけたかな』
(こが ようこ/構成・文、降矢 なな/絵、童心社、2018年)
数多くある赤ちゃん絵本。
「何を贈ったら喜ばれるだろう?」と迷う方も多いでしょう。
絵本を選ぶ方法は様々です。
自分が子どもの頃に読み聞かせてもらった懐かしい一冊を選んだり、我が子のお気に入りの本を参考にしたり、書店で直感的に「ジャケット買い」をするのも素敵な選び方です。それでも「確かな一冊をプレゼントしたい!」と迷う時、心強い道標となってくれるのが、全国で展開されているブックスタート事業で紹介されているタイトルです。ご紹介の絵本も、「2024〜26年のブックスタートの赤ちゃん絵本」として選ばれています。
ブックスタートは、0歳児健診などの機会に、「絵本をひらく楽しい体験」と「絵本」をセットでプレゼントする活動で、多くの自治体で実施されています。ここで選ばれる絵本は、有識者により、厳格な選考基準に基づいて選定されています。その選考基準を見ると、「赤ちゃんと保護者が豊かな言葉を交わし、気持ちを通わせながら楽しい時間を過ごすことで、赤ちゃんの心健やかな成長を応援する絵本」であることが前提とされています。選ばれる絵本の多くは、わらべうた絵本をはじめ、リズムのある絵本が多く含まれています。
例として、この数年、以下のようなタイトルの「わらべうた絵本」が選ばれています。
* 『あぶくたった』(さいとうしのぶ/構成・絵、ひさかたチャイルド、2009年)
* 『ととけっこう よがあけた』(こばやしえみこ/案、ましませつこ/絵、こぐま社、2005年)※ 数年にわたり選ばれているロングセラー
* 『へっこ ぷっと たれた』(こがようこ/構成・文、降矢なな/絵、童心社、2018年)
* 『ねんねん ねこ ねこ』(ながのひでこ/作・絵、アリス館、1996年)
これらのタイトルを目にしただけで、自然とそのわらべうたのメロディやリズムが頭に浮かんできませんか。これは、わらべうたが持つ普遍的な力の証拠。ブックスタートの選定は、赤ちゃんとの「ふれあいの時間」の質を保証してくれる、信頼できるリストの一つと言えると思います。
3. 「絵本パック」との出会い
今回ご紹介の『おせんべ やけたかな』と我が家の親子が出会ったのは、数年前、図書館で「絵本パック」を借りたことに遡ります。
当時、絵本専門士養成講座受講中でありながら、月齢に合った赤ちゃん絵本の選び方に自信が持てなかった私が、「本選びに困っている方のために」と勧められたのが、「0・1・2歳児向けの絵本パック」でした。本の福袋のようなその中から現れたのが、愛嬌のあるおせんべの顔が目立つ一冊でした。
子どもはその絵本に強く惹きつけられ、「よんで!」と手渡してきました。
「おせんべ やけたかなって、昔聞いた、あのわらべうた?」
半信半疑で子どもを膝に乗せ、読み進めると、それは子どもの大好きなわらべうたのリズム!読み進めるたびに、子どもはきゃあきゃあと喜びの声をあげました。
わらべうた絵本の醍醐味は、読み聞かせに留まらない「遊びの多様性」です。私たちは、リズムに合わせて指差しをする遊び、おせんべの表情を真似るにらめっこ遊び、ごっこ遊びなど、たくさんの遊びを生み出し、濃厚なスキ ンシップの時間を持つことができました。この一冊は、我が子が「自分で選び、読みたがった」特別な絵本となり、私に子育ての喜びを再確認させてくれた宝物です。
絵を手がけているのは『めっきらもっきらどおんどん』などで知られる降矢ななさん。一枚一枚のおせんべの表情が、たまらなく愛らしいです。そして、構成・文のこがようこさんが巻末に寄せるメッセージ。―「絵本を通して、あかちゃんといっしょに、わらべうたの世界で自由に遊んでください。そのひとときが、よろこびに満ちた心のふれあいの時間となればうれしいです」——この言葉に、「自由に、子どもとの時間を楽しめばいいんだ」と気づかされ、肩の力がフッと抜けた瞬間を今でも鮮明に覚えています。絵本の選び方や読み方に迷っていた私にとって、この「わらべうた絵本」が、心の助け船となったのです。
4.なぜ「わらべうた絵本」を贈りたいのか:子育てと文化を繋ぐ魔法
私が出産祝いに「わらべうた絵本」を選ぶのは、単なる流行やブームではない、子どもの成長と親子の絆に深く根ざした理由があるからです。
1)「ふれあい」の質を高めるリズムと安心感
「かけがえの無い赤ちゃんとの豊かな触れ合いの時間を楽しんで欲しい」——これが、私がわらべうた絵本を選ぶ最大の理由です。
わらべうたは、大人が歌うように読んであげられるのが特徴です。そのゆったりとしたリズム、心地よい音の響きは、日本の風土の中で長い年月をかけて育まれてきたもの。赤ちゃんが泣き止んだり、穏やかに眠りにつく時に聞かせるトントンという寝かしつけのテンポにも通じる、心臓の鼓動に近いリズムです。
多くの研究が、わらべうたが子どもの心と体の健やかな成長に良い影響を与えることを示していますが、単純な言葉の繰り返しとリズミカルな音の響きは、まだ言葉を理解しない赤ちゃんにとっても最高の刺激となり、情緒の安定につながります。
また、わらべうた絵本は、歌やリズムに合わせ、こちょこちょしたり、身体の一部を触ったりといったスキンシップを自然に促します。歌と動作が一体となった遊びを通して、赤ちゃんは親からの無条件の愛情を感じ取り、自己肯定感や愛着関係の基礎を築いていくものです。
2)言葉と文化の「土台」を育む
わらべうたの歌詞には、日本語の美しい音の感覚や、昔ながらの生活、風土に根ざした自然観などが豊かに盛り込まれています。口伝で残されてきたわらべうたは、まさに日本の文化的遺産です。
言葉を覚えていく過程にある子どもたちにとって、わらべうたのやさしい言葉のリズムのある文章は、言葉の抑揚やメロディを感覚的に捉えるのに非常に優れています。歌に乗せることで、発語を促し、豊かな言語生活の基礎を自然と築くことができます。
「わらべうた絵本」を贈ることは、日本の伝統的な言葉とリズムを、絵本という形を通して次の世代へと繋ぐ、ささやかな文化継承の役割も担っていると私は感じています。
3)ママとパパの気持ちを「軽く」する
子育ては、喜びと同時に戸惑いや疲労を伴うものです。「今日も、読み聞かせの時間が取れなかった…」と、罪悪感に苛まれてしまうこともあるかもしへません。でも、無理をして読み聞かせをする必要はありません。
わらべうた絵本は、ママやパパの気持ちをそっと助けてくれる「心のサポーター」でもあります。
* 時間がなくても、わらべうたならほんの数分、歌うように読んであげられる。
* スキンシップの導入としてわらべうたを歌ってから、絵本の世界に入っていくのもいい。
* 歌詞を忘れても、絵本を見れば思い出し、また遊べる。
飾らない、ゆったりとしたわらべうたのリズムは、歌う大人自身の心をも落ち着かせ、育児への自信へと繋がるのではないでしょうか。
プレゼントの選定に迷ったら、ぜひ「わらべうた絵本」に目を向けてみてください。それは、赤ちゃんへの愛情だけでなく、親御さんへの「育児を楽しんでね」という温かいエールも一緒に届けてくれる、最高の贈り物になるのではないでしょうか。
一緒に絵本の世界を楽しみ、子育ての旅を彩り豊かなものにしていきましょう。
絵本専門士第10期 浅野 澄
(司書、司書教諭、JPIC読書アドバイザー、フリーアナウンサー)
*参考:「ブックスタート」公式サイト
1.はじめに
コラムをご覧いただき、ありがとうございます。絵本専門士の浅野澄と申します。
私は絵本専門士として「もっと多くの人に絵本を大好きになってほしい、もっともっと絵本を楽しんでほしい」という願いを胸に活動しています。絵本は、時間も場所も飛び越え壮大な旅へ連れて行ってくれるだけでなく、喜びや感動、時には怒りや悲しみといった豊かな「感情を分かち合う空間」を創り出してくれます。この感情の共有こそが、かけがえのない宝物と感じています。
このコラムでは、私自身も絵本を通して生まれる心の交流を願いつつ、ご覧の皆様と一緒に奥深い絵本の世界を楽しみ、子育てや日々の生活を彩る一冊との出会いをサポートできれば幸いです。
今回から執筆させていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。
2.迷った時に頼りたい「心強い道標」としての絵本選び
今回は、出産祝いや誕生日などのプレゼントにおすすめしたい「わらべうた絵本」に焦点を当ててご紹介します。
先日、友人や親戚の元に新しい命が誕生しました。その際、「かけがえのない赤ちゃんと、豊かな触れ合いの時間を楽しめますようにと願いを込めて贈ったのが「わらべうた絵本」です。
私が贈ったのは、こちらの絵本です。
わらべうたでひろがるあかちゃん絵本
『おせんべ やけたかな』
(こが ようこ/構成・文、降矢 なな/絵、童心社、2018年)
数多くある赤ちゃん絵本。
「何を贈ったら喜ばれるだろう?」と迷う方も多いでしょう。
絵本を選ぶ方法は様々です。
自分が子どもの頃に読み聞かせてもらった懐かしい一冊を選んだり、我が子のお気に入りの本を参考にしたり、書店で直感的に「ジャケット買い」をするのも素敵な選び方です。それでも「確かな一冊をプレゼントしたい!」と迷う時、心強い道標となってくれるのが、全国で展開されているブックスタート事業で紹介されているタイトルです。ご紹介の絵本も、「2024〜26年のブックスタートの赤ちゃん絵本」として選ばれています。
ブックスタートは、0歳児健診などの機会に、「絵本をひらく楽しい体験」と「絵本」をセットでプレゼントする活動で、多くの自治体で実施されています。ここで選ばれる絵本は、有識者により、厳格な選考基準に基づいて選定されています。その選考基準を見ると、「赤ちゃんと保護者が豊かな言葉を交わし、気持ちを通わせながら楽しい時間を過ごすことで、赤ちゃんの心健やかな成長を応援する絵本」であることが前提とされています。選ばれる絵本の多くは、わらべうた絵本をはじめ、リズムのある絵本が多く含まれています。
例として、この数年、以下のようなタイトルの「わらべうた絵本」が選ばれています。
* 『あぶくたった』(さいとうしのぶ/構成・絵、ひさかたチャイルド、2009年)
* 『ととけっこう よがあけた』(こばやしえみこ/案、ましませつこ/絵、こぐま社、2005年)※ 数年にわたり選ばれているロングセラー
* 『へっこ ぷっと たれた』(こがようこ/構成・文、降矢なな/絵、童心社、2018年)
* 『ねんねん ねこ ねこ』(ながのひでこ/作・絵、アリス館、1996年)
これらのタイトルを目にしただけで、自然とそのわらべうたのメロディやリズムが頭に浮かんできませんか。これは、わらべうたが持つ普遍的な力の証拠。ブックスタートの選定は、赤ちゃんとの「ふれあいの時間」の質を保証してくれる、信頼できるリストの一つと言えると思います。
3. 「絵本パック」との出会い
今回ご紹介の『おせんべ やけたかな』と我が家の親子が出会ったのは、数年前、図書館で「絵本パック」を借りたことに遡ります。
当時、絵本専門士養成講座受講中でありながら、月齢に合った赤ちゃん絵本の選び方に自信が持てなかった私が、「本選びに困っている方のために」と勧められたのが、「0・1・2歳児向けの絵本パック」でした。本の福袋のようなその中から現れたのが、愛嬌のあるおせんべの顔が目立つ一冊でした。
子どもはその絵本に強く惹きつけられ、「よんで!」と手渡してきました。
「おせんべ やけたかなって、昔聞いた、あのわらべうた?」
半信半疑で子どもを膝に乗せ、読み進めると、それは子どもの大好きなわらべうたのリズム!読み進めるたびに、子どもはきゃあきゃあと喜びの声をあげました。
わらべうた絵本の醍醐味は、読み聞かせに留まらない「遊びの多様性」です。私たちは、リズムに合わせて指差しをする遊び、おせんべの表情を真似るにらめっこ遊び、ごっこ遊びなど、たくさんの遊びを生み出し、濃厚なスキ ンシップの時間を持つことができました。この一冊は、我が子が「自分で選び、読みたがった」特別な絵本となり、私に子育ての喜びを再確認させてくれた宝物です。
絵を手がけているのは『めっきらもっきらどおんどん』などで知られる降矢ななさん。一枚一枚のおせんべの表情が、たまらなく愛らしいです。そして、構成・文のこがようこさんが巻末に寄せるメッセージ。―「絵本を通して、あかちゃんといっしょに、わらべうたの世界で自由に遊んでください。そのひとときが、よろこびに満ちた心のふれあいの時間となればうれしいです」——この言葉に、「自由に、子どもとの時間を楽しめばいいんだ」と気づかされ、肩の力がフッと抜けた瞬間を今でも鮮明に覚えています。絵本の選び方や読み方に迷っていた私にとって、この「わらべうた絵本」が、心の助け船となったのです。
4.なぜ「わらべうた絵本」を贈りたいのか:子育てと文化を繋ぐ魔法
私が出産祝いに「わらべうた絵本」を選ぶのは、単なる流行やブームではない、子どもの成長と親子の絆に深く根ざした理由があるからです。
1)「ふれあい」の質を高めるリズムと安心感
「かけがえの無い赤ちゃんとの豊かな触れ合いの時間を楽しんで欲しい」——これが、私がわらべうた絵本を選ぶ最大の理由です。
わらべうたは、大人が歌うように読んであげられるのが特徴です。そのゆったりとしたリズム、心地よい音の響きは、日本の風土の中で長い年月をかけて育まれてきたもの。赤ちゃんが泣き止んだり、穏やかに眠りにつく時に聞かせるトントンという寝かしつけのテンポにも通じる、心臓の鼓動に近いリズムです。
多くの研究が、わらべうたが子どもの心と体の健やかな成長に良い影響を与えることを示していますが、単純な言葉の繰り返しとリズミカルな音の響きは、まだ言葉を理解しない赤ちゃんにとっても最高の刺激となり、情緒の安定につながります。
また、わらべうた絵本は、歌やリズムに合わせ、こちょこちょしたり、身体の一部を触ったりといったスキンシップを自然に促します。歌と動作が一体となった遊びを通して、赤ちゃんは親からの無条件の愛情を感じ取り、自己肯定感や愛着関係の基礎を築いていくものです。
2)言葉と文化の「土台」を育む
わらべうたの歌詞には、日本語の美しい音の感覚や、昔ながらの生活、風土に根ざした自然観などが豊かに盛り込まれています。口伝で残されてきたわらべうたは、まさに日本の文化的遺産です。
言葉を覚えていく過程にある子どもたちにとって、わらべうたのやさしい言葉のリズムのある文章は、言葉の抑揚やメロディを感覚的に捉えるのに非常に優れています。歌に乗せることで、発語を促し、豊かな言語生活の基礎を自然と築くことができます。
「わらべうた絵本」を贈ることは、日本の伝統的な言葉とリズムを、絵本という形を通して次の世代へと繋ぐ、ささやかな文化継承の役割も担っていると私は感じています。
3)ママとパパの気持ちを「軽く」する
子育ては、喜びと同時に戸惑いや疲労を伴うものです。「今日も、読み聞かせの時間が取れなかった…」と、罪悪感に苛まれてしまうこともあるかもしへません。でも、無理をして読み聞かせをする必要はありません。
わらべうた絵本は、ママやパパの気持ちをそっと助けてくれる「心のサポーター」でもあります。
* 時間がなくても、わらべうたならほんの数分、歌うように読んであげられる。
* スキンシップの導入としてわらべうたを歌ってから、絵本の世界に入っていくのもいい。
* 歌詞を忘れても、絵本を見れば思い出し、また遊べる。
飾らない、ゆったりとしたわらべうたのリズムは、歌う大人自身の心をも落ち着かせ、育児への自信へと繋がるのではないでしょうか。
プレゼントの選定に迷ったら、ぜひ「わらべうた絵本」に目を向けてみてください。それは、赤ちゃんへの愛情だけでなく、親御さんへの「育児を楽しんでね」という温かいエールも一緒に届けてくれる、最高の贈り物になるのではないでしょうか。
一緒に絵本の世界を楽しみ、子育ての旅を彩り豊かなものにしていきましょう。
絵本専門士第10期 浅野 澄
(司書、司書教諭、JPIC読書アドバイザー、フリーアナウンサー)
*参考:「ブックスタート」公式サイト

